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Keiichi's Blog

「あら、手伝ってく

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「あら、手伝ってく

「あら、手伝ってくれるなんて珍しい。どういう風の吹き回し?」

 

「別に。二人でやった方が、早く終わるでしょ」

 

母が洗った食器を隣で拭きながら、鄭志剛 私は小さな声で呟いた。

 

……お母さん、ありがとね」

 

「それは、何に対してのお礼なのかしら?」

 

「何って……いろいろ。細かく聞かないでよ」

 

「本当に、素直じゃないわね」

 

「私のこのひねくれた性格は、確実にお母さんに似たのよ」

 

生意気にそう言い返すと、母はふっと呆れたように笑い、そのまま食器を洗い続けた。

でもその笑顔は、どこか嬉しそうにも見えた気がした。

 

片付けを終えた後は、寝る支度を整え布団を敷いた客間へ向かった。

すると、ちょうどお風呂から上がった久我さんと部屋の前で遭遇した。

 

「お風呂の温度、ちょうど良くて気持ち良かったよ。お母さんはもう寝た?」

 

「うん。一通り片付け終わって、さっさと寝室に入っちゃったみたい」

 

「そっか。何も手伝えなくて申し訳なかったな」

 

久我さんとお泊まりしたとき、いつも思うことがある。

それは、彼の風呂上がりの姿が異常に色っぽくて目のやり場に困ることだ。

 

母が用意したパジャマでさえ、ムダにカッコよく着こなしてしまう。

本当に、罪な男だ。

 

「どっからフェロモン出してるの?」

 

「何が?」

 

……女の私が負けてるとか、悔しい」

 

布団の上に寝っ転がり、軽くストレッチを始めると、久我さんも私のすぐ隣で横になった。

 

「今日、楽しかったよ」

 

「本当に?良かった。飲み過ぎて、さすがに酔ったでしょ。具合悪くない?」

 

「具合は悪くないけど、正直緊張したから、久し振りに酔いがまわったかもな」

 

「ウソ、緊張してたの?」

 

「しないと思ってたけど、最初は意外としたね。だから、今はホッとしてるよ。君の両親と親しくなれて、良かった」

 

そう言って彼は、私との距離を縮め、寝転がったまま私の身体をギュッと抱き寄せた。

 

心臓が、ドキドキしてる。

私と同じくらい、彼の心臓の音も、うるさい。「……両親のあんなに嬉しそうな顔、久し振りに見た」

 

「そうなんだ」

 

「久我さん、めちゃくちゃ気に入られたと思う」

 

「嬉しそうな顔していたのは、僕が来たからじゃなくて、君が幸せそうに笑っていたからだと思うよ」

 

……

 

今日一日、自分がどんな顔していたのかなんて、鏡で見ていなくてもわかる。

彼の言う通りだ。

 

嬉しかった。

ただただ、幸せだった。

一日中、心が満たされていた。

 

私は感情が顔に出てしまうタイプだ。

そしてそれはもちろん、両親も知っていることだ。

 

「蘭」

 

彼が私の名前を呼び、見つめあうと甘いキスが降り注ぐ。

もちろん実家だから、キスの先に進むことはない。

 

でも、唇を重ねるだけで、とろけてしまいそうだった。

 

「久我さん呼び、復活してるね」

 

「え……

 

「君の両親の方が、僕の名前を呼んでくれるよ」

 

……うるさいな。おやすみ!」

 

何となく分が悪くなり彼に背を向けると、クスクスと笑う声が背中越しに聞こえ、後ろから抱き締められた。

 

「おやすみ」

 

私はそっと彼の手に自分の手を重ね、目を綴じた。

 

今日という日を笑って一緒に過ごせたことに感謝をしながら、眠りについた。

 

きっと今夜は、素敵な夢を見るに違いない。翌朝、私が目を覚めたときには、既に久我さんの姿はなかった。

慌ててスマホを覗くと、まだ朝の七時。

休日の朝にしては、早い時間に起きれた方だと思う。

 

まだ眠たい。

せめて、あと一時間は寝たい。

でも、ここは実家だ。

更に久我さんの姿がここにないのなら、私も今すぐ起きないと。

 

まだ寝たい、でも起きなくちゃ。

両極端の感情の中でものすごく葛藤しながらも、どうにか布団から抜け出し、襖を開けた。

 

すると、エプロン姿で母とキッチンに立つ久我さんが目に飛び込んできた。

しかも、白いレースの付いたフリフリのエプロンだ。

母が無理やり着せたのだろう。

 

「あぁ、起きたんだ。おはよう」

 

「蘭にしては早く起きたじゃない。顔、洗ってきなさいよ」

 

「ねぇ、そのエプロンめちゃくちゃ似合ってないんだけど」

 

「僕は結構気に入ってるんだけどな」

 

「ちょ、朝から笑わせないでよ……

 

写真に撮りたいくらいツボにハマってしまい、ニヤニヤ笑いながら母に言われるままに顔を洗いに行った。

 

そしてリビングに戻り、ソファーに座りながら新聞を読んでいる父の隣に座った。

 

「蘭、おはよう。昨日は酔いつぶれてすまなかったな」

 

「おはよ。お父さん、本当にヤバかったからね。てか、みんな起きるの早くない?久我さんとお母さん、朝ごはん作ってくれてるの?」

 

「匠くん、料理も出来るんだってね。おかげで朝からお母さん、上機嫌だよ」

 

父が言うように、久我さんと並んで料理をする母はハイテンションだ。

それにしても、たった一日でずいぶん親しくなった気がする。

正直、母は気難しい所があるから、いくら久我さんでもここまで母の信頼を勝ち取ることが出来るとは思っていなかった。

 

「頻繁に帰ってこいなんて言わないから、たまには匠くんを連れて帰ってきてくれよ。あんなに楽しい夜は、久し振りだったなぁ」

 

……もう酔いつぶれないなら、たまに帰ってきてもいいけど」

 

「気長に待ってるよ」

 

一緒にお酒を飲むだけで楽しんでくれるのなら、なんぼでも付き合ってあげる。

 

親が喜ぶ姿を見たい。

そんな風に思える自分になれて、良かった。

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