山南は不思議そうな顔で見ている。
「土方さんが地図書いて策略立てて山南さんが調整する。あれでよかったのになぁ」
沖田は遠回しに伊東の参謀というポストがいらないと言いたいのだ。
「あの頃はよかったな。素直に笑ってられた。今は別に楽しいわけでもないのに笑っている。皆変わったからね」
あの頃はよかった。と言っても今は今だ。過去に戻れるわけでもなく、ずっとそのままで止まっていられるわけでもない。
時は前に進む一方だ。
その頃の美海は…。【低成本生髮?】 什麼是生髮精油?有用嗎?
カッチャカッチャカッチャカッチャ。
お盆の中の皿をぶつけながら道を歩いている。
「はー…。重い」
ふと土方の部屋の前を通った。
「………」
ススススス。
前に進んでいた足を止め、そのまま後ろに戻る。
ガラッ
「土方さん!あんま山南さんにひどいこと言わないでくださいよ!!」
「あ゛?」
振り返った土方はいつに増して不機嫌そうだ。
いつもは勝手に入ると怒るのだが今日は怒らない。
ビクッ!
そんな土方に美海は一瞬怯む。
「だだだだだから…山南さんに…」
「わかってる!わかってるんだ…」
土方はなんだか悲しそうな顔をした。
「わかってるんだよ…」
「土方さん?」
「わかってるんだ。俺が山南さんを苦しめてることも。
わかってるんだ。隊を強くしたいのも俺の自己満足だって。
山南さんの言ってることも正論だって」
土方はそう言うと伏く。
「全部わかってるんだよ…。
でもどうしたらいいんだよ…。
なんでこうなったんだよ…」
土方さんがこんなんになるなんて。珍しい。
美海がおもむろに口を開いた。
「土方さんはしばらくここで悩んでてください」
「へ…?」
「なんでこうなったとかどうしたらいいとか。そんなのわかりませんよ。自分しかわからないでしょ?だから一人でゆっくり悩んでください。私はお菓子持っていかなきゃ駄目なんで」
ガラッ
「なんだよ…。あいつは女中かよ…」
土方は苦笑いだ。
カッチャカッチャカッチャカッチャ…
「お待たせしました~!」
美海がそう言ったが沖田と山南はなんだか元気がない。
どうしたんだろ?
「どうぞ」
カチャン…
二人の間に団子を置いた。
「ありがとうございます。遅かったですね」
沖田が笑いかける。
ドクン…
あ。まただ。今度は悪化してる。沖田さんに笑われただけで心臓が変になった。
本格的にまずいなぁ。
「あああ!えっと!土方さんの部屋に!」
「土方さんの部屋…?」
「土方さんもなんか悩んでましたよ。山南さん。多分土方さんは謝りたくても謝れない人なんで明日は普通に接してあげてください」
「ははは!確かにね」
山南のその横顔を見て沖田は思った。
皆変わってない。変わってしまったのは山南さんだ。
「あ。沖田さん!それ最後の団子!」
美海がふと言った。
「へ?」
沖田は無意識に手を伸ばしていたようだが、最後だったようだ。ほとんどは沖田が食べてしまった。
美海はジッと見ている。
「あ…あげませんよ!そんな目で見ても!」
美海は視線を逸らさない。
「……わかりました。三人でわけましょう」
団子は串に3つ刺さっている。
ピンク、白、緑だ。
「やった!」
「沖田くん。私はいいよ」
「日頃の感謝です」
「私は桃色がいいです!」
美海がニコニコ笑う。
「仕方ないですねぇ」
沖田は白を取る。
「山南さん。はい」
緑は山南だ。実は美海も沖田も緑は少し苦手である。
「明日また。頑張ってみようかな」
団子を取り、山南はそう呟いた。
あれから山南も頑張っていたようだが、相変わらず土方とは少し溝があり、居づらそうにしている。
そんなある日のことだった。
「ねぇ。美海さん」
「なんですか~」
非番の沖田と美海は部屋でゴロゴロとしていた。
「なんか屯所変わるかもしれないらしいですよ~」
沖田は布団の上に寝転がっていて美海は火鉢の近くにいる。
「へ~。ってえ!?嫌だ!」
ボーッとしていた美海は我に返った。
「私だって嫌ですよ。せっかく壬生に慣れてきたのになぁ」
「誰から聞いたんですか!?」
「山崎さんです。今、近藤さんと土方さんと山南さんで会議してるらしいですよー。山南さんは反対してるらしいけど押されてるから多分移転になるんじゃないかって」
「そーいやどこに?」