三津の優しい目に見つめられた山縣は複雑な心境を眉間のシワで表した。
納得したくないがいつまでもこんな我侭を押し通していられないのも本人は分かっている。
「俺もそこは分かっちょる……。」
「はい。山縣さんが,自分は何をせなアカンか理解してるのは分かってます。
だって一人にするなとは言うけど,自分がここを離れるとは一言も言ってませんもんね。一緒に行くって言ってへん。
自分はここを離れたらアカンって,分かってますもんね。」
ホンマに真面目やなぁと笑う三津を,山縣はまたきつく抱き締めた。「嫁ちゃんっ……!また戻って来てくれるか!?戻って来たらまた酒呑んでくれるか!?労ってくれるか!?」
「勿論です。」
「向こう行っても俺の事思い出してくれるか?」 【低成本生髮?】 什麼是生髮精油?有用嗎?
「そんなん当たり前やないですか。いつだってこっちのみんなの事も思い浮かべます。
またみんなで過ごせる日が来るんを信じて行く末を見守りに行きます。
離れてても一緒に乗り越えましょ。」
三津は号泣する山縣の背中を撫でてひたすら宥めた。桂達は静かにそれを見守るしかなかった。
「……分かった。嫁ちゃん,体に気をつけり。そんで向こうの暮らしがやっぱり合わんのならいつでも帰って来たらいいけぇ。」
ようやく三津から身を剥がして,三津を気遣う言葉を沢山並べた。
三津はそれの一つ一つに頷いて返事をした。
そうやって出立まで山縣を宥めに宥めて今に至る。
「あの馬鹿があそこまで繊細やとは思わんかったわ気色悪い。」
入江はあの泣き顔思い出すだけで鳥肌が立つと身を震わせた。
「九一さん山縣さんの事になると急に口悪くなりますよね。」
「それだけ君と山縣君は仲が良いって事だな。」
そう言って平然と会話に混じってきた桂を入江はじろりと睨んだ。
「で?今回は全行程歩き旅なんですね?」
「藩からあまり金は使わんように言われていて……。」
桂は道の真ん中で立ち止まり,申し訳ないと三津に頭を下げた。
「私は歩き旅で構いませんよ?色んな景色見られるのが楽しいので。それより私と九一さんが留守番してたら小五郎さん一人分の船代くらい捻り出せたでしょう?」
自分達が一緒だから余分な出費が増えたのだと思うとちょっと心苦しい。
「そこは気にしないでくれ。私が君らを連れて行きたかったからだし……。」
結局お前のわがままのせいだと二人からけちょんけちょんに言われそうで段々小声になった。
「遠方に行く時は連れて行くと言ってましたもんね。だからついて行くのは問題ないです。行くと聞いてから出立までが怒濤だったのが……ね?」
三津がちらっと入江に視線を送ると入江は無言で大きく頷いた。
「私も一緒に行くのは問題ないです。向こうが今どうなっちょるかはこの目で確かめたかったし,あいつらの遺志を継いで私が力になれるなら本望です。
なのでこれからどうするつもりなのか……その辺を詳しくお聞かせ願えますかね?」
こっちから聞かないと何の情報も寄越さないとかふざけんじゃねぇよと入江の笑顔が訴える。『三津の笑顔の圧と九一の笑顔の圧は通ずるものがあるな……。』
だが今は気圧されてる場合ではない。冷静に咳払いを一つして周りに気を配りながらこれからの事を少しずつ話した。
「京に戻ってから九一と三津はあの家で夫婦を装って暮らして欲しい。」
「装うと言うか私ら夫婦同然よな?」
「九一,今心を砕かれたら私はこの先の事を一切話す気になれない。」
だから黙って聞け。要はそういう事。
入江が口を閉ざして仏頂面になったところで桂は続けた。
「名も偽名で通さねばならん。だから三津,違和感だらけだろうが松子に慣れてくれ。」
「偽名と言うか本名ですよね?」
「……そうだね。」
「木戸さんも木戸さんでいいんでしょ?幕府側の人から身を隠す為の改名でしょ?それより九一さんどうしたらいいですか?」