どこであろうと、死んでいいものではない。ましてや、兄たちに負けじと、無駄に散っていいものではない。兼川には、それに気がつき、生き残ってほしい。そう切に祈らずにはいられない。
「ねぇ、主計さん」
相棒のご機嫌うかがいを、もとい、相棒の健康チェックをしていると、市村と田村がいそいそとちかづいてくるではないか。
いつもとちがって、肺癌咳嗽 やけにしおらしい。
「いっておくけど、兼定の散歩係の給金は雀の涙ほどもない。ゆえに、龍神の涙くらいもらっている双子先生にたかるといい」
ぴんときたので、くぎをさしておく。
永倉と原田がいないいま、かれらがたかれる人はそんなにいない。
「主計さんのどけち」
「そうだよ。大人のくせに、子どもを思いやることもできないなんて」
田村、ついで市村が、おれのすべてを全否定してくれる。
「あのなぁ、鉄、銀。局長から、お手当がわりのお小遣いをもらってるんだろう?いまのうちに、経済観念をしっかり身につけておかないと、大人になったら自己破産してしまうぞ」
それから、いいお婿さんになれないぞ、とも付け足しておく。
「だいたい、都合のいいときだけ主計さんって、ないんじゃないのか?」
大人げなくも、ぶちぶちと嫌味をいいつづける。相棒が、「めっちゃいやなやつ」、といわんばかしにみあげてくる。
すると、市村が庭の向こうへ駆けてゆき、戻ってきた。掌に、小枝を握っている。それから、それで地面になにかを書きはじめる。
「FUCK YOU!」
ぶっ飛んでしまった。しかも、ちゃんとびっくりマークまでつけて・・・。
「ファックユー!ファックユー!ファックユー!」
二人で、教育上よくないスラングを声高に連呼する。
おれ以上に現代っ子の野村が、教えたにちがいない。
将来、この子たちが新撰組を語るのに、「Fuck you!」一色だったらどうしてくれるんだ。
「やめてくれ、二人とも」
ついに、懇願する。敗北感が半端ない。大人なのに、大人げない態度をとった罰にちがいない。
ふと、家屋へとを向ける。縁側で、ぽかぽかとした陽射しを浴びつつ、斎藤と双子が並んで座っている。
斎藤は、愛刀「鬼神丸」の手入れに余念がなく、双子は針仕事。その脇に、大量の軍服が積み重なっている。
このまえの戦いで破れたりこすれたりした、みなの軍服を補修しているのである。
異世界転生で、アパレル業界でかつやくしていたにちがいない。
「わかった。わかったから、話をきく。きくから、もうやめてくれ」
「っから、そうしてくれればいいんだよ、主計さん」
「そうそう。いつの世も、かよわいどもには勝てないんだから」
野村め・・・。子どもらに、なんてことを植えつけるんだ。
その野村は、本日は局長と副長のお供で出張中である。
ひとえに、調練さぼりたさであることはいうまでもない。
「主計さんって誠にわかりやすいから、あつかいやすいよね」
「そうそう。をみたら、なにをかんがえてるのかすぐにわかるよね」
んんんんんん?いまの市村と田村の会話は、いったいなんだ?
「うしししし」
しかも脚許で、相棒がケンケン笑いをしているではないか・・・。
再度、金子家の母屋の縁側へとを向ける。
そこだけときがとまっているかのように、さきほどとおなじ光景が展開されている。いや、一つだけちがうことがある。雀が何羽かきていて、庭でなにかをついばんでいたり、双子の肩や頭の上にのっていたりする。
それが、40、50メートルほどはなれているにもかかわらず、はっきりとみえる。
「どちらですか?」
その一見のどかな光景をうちやぶる勢いで、母屋の方へとダッシュし、双子に問う。
綱をつけていない相棒と、子どもらが追いかけてくる。
「いったいぜんたい、どちらがいらぬことをかれらにいったんです?」
縁側までくると、腰に掌をあてて威圧的に問いを重ねる。
「チュンチュン」「チュンチュン」
午後のひととき。雀のチュンチュンが耳にうるさいくらいである。それから、「カタカタ」という音も。
斎藤は、刀身に打ち粉をふるっているところである。その「鬼神丸」が音を立てる、「カタカタ」という音が・・・。
肩が震えている。それは斎藤だけではない。双子の肩上にいる雀たちが上下している。
三人とも、あきらかに笑いを殺している。
「主計、気がついておったか?」
俊春が、口の端をむずむずさせながらきいてくる。
「おぬしのズボンの大事なところが破けておる。それから、シャツの脇のあたりも」
「ええっ?」
俊春の指摘に、仰天してしまった。シャツは兎も角、ズボンの大事なところが破けている?
よくある太りすぎて、かがんだ姿勢から立ち上がるそのタイミングで力がこもり、股の部分が裂けるってやつ。
もしかして、それなのか?
昔、まだ