三津と桂の一件は高杉がすぐに文に書き記して文の元へ届けられた。
「早すぎるわあの馬鹿男!」
文は怒りに震え読み終えた文をぐしゃぐしゃに丸めて畳に投げつけた。やっぱり連れて帰れば良かった。無理にでも押し通せは良かったとその場を右往左往してこの苛立ちをどうしてくれようと息を荒くした。
その怒りを鎮める為に久坂の位牌に正座で向き合った。
「あなたの大事な妹さんズタズタに傷付けられて捨てられたわ。でも安心して。私がしっかり幸せな方に導くけ見ててね。」 【低成本生髮?】 什麼是生髮精油?有用嗎?
文はよし!と気合を入れ直して三津を迎える準備にかかった。
出立前日の夜,幾松は三津の部屋にいた。本当に行くのかとしつこいぐらいに確認した。三津はもう決めた事だと考えを曲げなかった。
「ホンマに未練ないん?」
「それを断ち切る為に離れるんです。」
『ホンマに頑固で融通の利かん子ね。』
幾松はこれが最後の意地悪だとまっすぐ三津を見た。
「私ね木戸はんに奥さんにしてって頼んだの。そしたら……私と結婚してくれるって。」
三津の瞳が揺らた。幾松はさぁ突っかかって来い。そんなのあんまりだと泣いてみろ。そう思いながらじっと目を見つめたのに,その目は逸らされる事なくこちらを見ながら微笑んだ。
「おめでとうございます。幸せになってね幾松さん。」
泣きそうな三津より先に幾松の涙が溢れた。
「阿呆ちゃう!?何でっ!!……もう知らんっ!!」
幾松は怒鳴りつけて部屋を飛び出した。三津が嫉妬に狂うような子じゃないのは分かっている。それでも本当はまだ好きだとか,妻になるのは私だとか言って欲しかった。桂への執着を見せて欲しかった。
「阿呆……。」
三津も桂も,どうにかしてあげられるのではと思った自分もみんな阿呆だと涙に暮れた。
翌日三津を見送りに来たのは入江だけだった。どこから桂に情報が漏れるか分からないから一人でひっそりとやって来た。
「文を書く。会いにも行く。あとあの約束忘れんでね。」
「はい忘れません。」
二人は距離を保って笑い合った。未練がましくならないようにお互いに触れなかった。
“またいつか”と言い残してあっさり旅立った三津の背中を白石は悲しげな顔で見送った。
「本当にこれでいいの?」
「分かりません。その答えはもっと先で分かります。これで良かったと思えるようにするのも私の役目なのでご心配なく。」
「幸せにしてあげてね。」
「必ず。さて戻るかねぇ。」
入江は帰路についたが三津の居なくなった部屋に戻るのは酷く寂しくて嫌だった。入江と萩に向かった時はどこかのんびり悠長な旅だったが今回は全く違った。そのお陰で感傷に浸る間もなくすぐに萩に着いた。
『懐かしい感じする……。』
ついこの前来たばかりなのにどこか自分の田舎に帰ってきたような錯覚に陥った。
目的の場所で同行させてくれた白石の知人に礼をして三津は文の家に向かった。
こんなに早く逃げてくる羽目になるなんて思わなかったと苦笑いで文の家の玄関先に立った。
「ごめんください。文さん,三津です。」
声をかけるとすぐに中から足音が響いて来た。ガラっと勢い良く開いた戸の先に,
「おかえり!」
変わらぬ明るい笑顔で迎えてくれる文が居る。その安心感に張り詰めていたものが解けた。
「文さんっごめんなさいっ……!私っ……!」
ぼろぼろ泣いて謝る三津を文はぎゅうっと抱きしめた。
「謝らんでいいよ。お疲れ様。中入って少し休み。」
優しい声に頷いて三津は家に上がった。好きなように使ってくれと前に入江が使っていた部屋を与えてもらった。
「何かあったら主人と兄が話聞いてくれるけ。あなた,三津さん今日からここで暮らすそ。近くに来てくれて安心やろ?」
「兄上……今日からここで新しく生きる意味を探すので……よろしくお願いします。」
人間の本能と言うものは凄い。
がむしゃらに走ったと言うのに,ちゃんと目的地には到達しているのだ。
「つ…か…。疲れた……。」
胸に手を当て,激しく脈打つ心音を感じ,【中年脫髮危機】一文拆解地中海脫髮成因 @ 香港脫髮研社 :: 痞客邦 :: 荒い呼吸を必死に整えた。
「何やろ…懐かしい…。」
目の前にある風景が,もう何年も昔のモノのように思える。
何となく境内に踏み込むのに勇気がいる。
宗太郎はいるだろうか,素っ気ない反応をされないだろうか。
『私の事嫌いになってないやろか…。』
走り疲れたせいなのか,緊張が混じっているせいなのか,足が震える。
その足で一歩ずつ前へ進む。
やがて見えてくるいつもの景色。
いつも通りの子供達。
いつも通りの……。
「宗太郎……。」
ゆらりと佇む影に気付き,宗太郎の動きが止まる。
「三津……三津ぅっ……!!」宗太郎の小さな体が跳ねて三津の胸に飛び込んだ。
三津はしがみついた宗太郎の頭を優しく撫でた。
こんなに離れ離れになったのは初めてだ。
いつでも会いに行ける距離なのに。
宗太郎が何度もお店に来ていたのは知っている。
来る度にトキに追い返される姿をこっそり見ていた。
最初は食い下がっていた宗太郎も,次第に“あぁまたか…。”“やっぱりな…。”
と言った様子で,とぼとぼと帰るようになっていた。
だからもう嫌われたと思った。
お店から出てこない自分だけでなく,トキも功助も嫌われてしまったと思った。
「ごめんな…。今日はいっぱい遊ぼ?な?」
こう言ってにっと笑えば,きっと笑い返してくれるんだ。
三津はそう信じて必死に口角を上げた。
『最近笑ったのいつやろ…。』
自分でも不自然なのが良く分かる。
「しゃあないな…。遊んだるわ!!」
三津の目に映ったのは悪巧みを思い付いた顔。
この懐かしさが堪らない。思わず泣きそうになった。
込み上げて来る想いが強すぎて。
「おーい!みんな!三津が鬼やってくれるって!逃げろ!!」
突如始まった鬼ごっこ。三津の胸が高鳴った。
「よぉし!行くで!!」
三津は散り散りになった子供達を追いかけた。
馬鹿みたいに笑って,走って,走って,笑って,転んで。
「アカン…体力足りひん……。」
いつもならまだまだ走れるのに,全然体力が無い。
『情けない……。』
息も上がって足も震える。
でも子供達は遊んでくれとせがんでくる。
それが何より嬉しくて,泣きそうになる。
「あら,みっちゃん来てる…。」
「ありゃ逃げ出して来たんやろ…。
おトキさんらがそう簡単に出しやせんやろ……。」
住職夫妻が遠巻きから見守る。
「やっぱりみっちゃんはあぁやって笑ってるのが一番やで…。」
もしかしたらトキと功助が大騒ぎをして探し回ってるかも知れない。
けれど,今の三津を店に連れ戻すのは酷だと思った。
日が暮れて,三津はポツンと境内に一人きり。
「帰ろうにも帰れんな……。」
深い溜め息をついて石段に腰掛けた。
今頃お店はどうなっているだろう。
そこを考えるとより溜め息が深くなる。
「これから寒くなると言うのに帰る所が無いの?」
いつの間にそこに居たのか。ゆらりと佇んでいた。聞き覚えのある声に勢いよく顔を上げた。相も変わらない不敵な笑みと目があった。
「吉田さんっ!」
「やぁ。川の中ぶりだね。」
もっと他に言い方は無いん?と三津はむくれた。
その顔を見てただ笑みを浮かべる吉田は以前と何ら変わりの無い吉田だった。
「風邪引いて寝込んでたらしいね。良かったね,これで馬鹿じゃないと証明された。いや,馬鹿は風邪を引かないと言う事が覆された。それって一大事だと思わない?」
くくっと喉を鳴らして笑う吉田に三津はより不機嫌な顔を作って見せた。
「言われると思ってました。予想通りのお言葉ありがとうございます。」
その減らず口も相変わらずですねと言いたかったけど,それよりも以前のままの吉田であってくれる事への喜びがじわりじわりと込み上げてきた。
そんな顔したって恐かねぇよ。
じっとりした視線を突き刺して来る三津を手招きした。
素直に傍に寄ってきた所で手首を掴み引き寄せた。
「役に立てる奴が欲しいんだよ。使える奴がな。」
『役に立てる人…。あぁ…桂さんにとっての幾松さんだ。』
急に胸が苦しくなって目を伏せた。
何でこんな時に思い出してしまったんだ。
悲しげに睫毛を震わせていると顎を掴まれ,無理やり顔を向き合わされた。
「まぁお前はそのままで充分だ。」 名牌 tote bag
土方の口は褒め言葉とも取れる言葉を紡いだ。
「それっていい意味?」
どっちにしても褒めてくれてるのだろう。喜びが湧き上がって目元は綻ぶ。
その様が飼い主に褒められて喜んで尻尾を振ってる犬のようにしか見えない。
『気紛れな猫よかいい。しっかり飼い慣らしてやる。』
見えない鎖で繋いだ。もう逃がさない。
「追悼会…ですか。」
「あぁ今日は外泊解禁だ。
帰って来る奴もいれば明け方まで戻らねぇ奴もいる。夕餉の支度もいらねえからゆっくりしてな。」
この間切腹した幹部,新見の追悼会を開く事になり島原へ行くと言う。
出掛ける前の土方に留守番時における忠告を受ける。
屯所で初めて一人での留守番に妙にわくわくしていた。
「今日はてめぇの部屋に戻るのを許してやるから寝てろ。」
これが最も重要な忠告だ。
この命令がなければ恐らく三津は起きている。
土方が思ってた以上に忠実な小姓だから。
『前みたいに縁側に腰掛けていられちゃ困るからな。』
なんせ今日は運命の日だから――。
「分かりました,気をつけて行ってらっしゃいませ。」
玄関先で三つ指をついてしおらしくお見送り。
頭を下げるとごつごつした手の平に優しく覆われた。
「行って来る。」
いい子で待ってろよ。
子供に言い聞かすように。…ではなくあくまで犬に待ての指示を出す感覚で三津の頭を撫でていた。
『こいつは単純だから餌をちらつかせたら尻尾を振って誰にでもついて行きそうだな。』
そんな風に思われているとはつゆ知らず,土方からの扱いがいつもより優しく感じられて三津はご機嫌で送り出した。
誰も居なくなった屯所は不気味なぐらい静まり返っていた。
どんなに廊下を歩き回っても誰にも会わない。
『寂しい…。』
しょんぼりと肩を落として土方の部屋に戻った。
自室に戻ったところで寂しいのには変わりない。
それならばこの際土方のものでも構わないから,誰かの匂いだけでも感じたかった。
「人が居てるけど静かなんと誰もおらんくて静かなのじゃ全然違う…。」
最近は騒々しいのに慣れてしまったせいで余計に人が恋しい。
「そうや,また空でも見よう!」
我ながらいい事を思いついたと縁側に出たが,すぐに玉砕した。
「うわぁ曇り空…。」
どんよりとして今にも雨が降り出しそうな気配。
湿気を含んだ独特な臭いが漂う。空気も重たく肌にまとわりついた。
「お三津ちゃんおるー?」
「お梅さん?」
どこからともなく自分を呼ぶ声がする。この声は間違いなく梅だ。
どこにいるのか庭先を見渡して姿を探してみると,
「来ちゃった。」
正解はここでした。と植木の陰から茶目っ気たっぷりに梅が顔を出した。「どうしたんですか?」
こんな時間に,自分に会いにやって来るなんて珍しくて突っ立ったまま首を傾げた。
「お三津ちゃん一人なんちゃうかなって思って。」
梅は自分の家のように縁側に腰を掛けて自分の左隣りをとんとんと指で叩き,座れと促した。
三津が座ると梅は嬉しそうににっこり笑った。
つられて三津も笑みを浮かべるが梅とは笑顔の質が違い過ぎると心の中で嘆いた。
『芹沢さんは厄介な人って言うけど…。』
この梅が一緒にいたいと思う芹沢とはどんな人物なんだろう。
「お梅さんは何で八木さんとこに住んではるの?」
そう言えば何も知らなかった。梅が芹沢の女だと言うこと以外は今に至るまで何も教えてもらえず。
「土方はんは教えてくれんかったんや?お三津ちゃんは大事にされてるんやね。」
三津ははて?と首を捻る。
土方は厄介で説明が面倒だから適当にあしらっていただけだと思う。
それに大事にされてると感じた瞬間は一秒たりとも無い気がする。
三津が難しい顔をして唸り声を上げていると梅はくすくす笑って艶やかな唇を動かした。
「私は堀川にある呉服屋の主人の妾やってんよ。」
「お妾さん?」
松原の横にいる姿を発見するが、右頬が腫れていることに気付く。
横に来た斎藤の袖を引くと、声を潜めて話しかけた。
「ねえ、斎藤君。桜花さんの頬…何だか腫れていませんか」
「……ああ、そうだな。武田さんに叩かれたそうだ」
何の感情も込めずにそう告げた斎藤に対して、沖田は驚愕の色を隠せていない。そして怒りすら滲ませていた。VISANNE Watsons 斎藤はそんな沖田を訝しげに見詰める。
「なあ、沖田さん。前から思っていたが…。何故、に鈴木の事を気に掛けるのだ。…特別な感情でもあるのか」
「な…ッ!」「桜花さん」
聞き慣れた声が桜花を呼ぶ。
ゆっくりと振り向くと、そこには沖田が立っており、その視線は右頬に集中していた。
「…どうしたんですか、その頬。赤く腫れてしまっています」
「…何でもないですよ。それより──わッ、沖田先生ッ!?」
沖田は桜花の手を掴むと、八木邸の方へ駆け足で向かった。そして井戸の前に来る。
急いで水を組み上げると、沖田は懐から手拭いを取り出して浸した。
固く絞ると桜花の方を向き、腫れた頬にそれを当てる。
ひんやりとした感覚が頬を冷ましていった。
「何でも無いなんて事は無いでしょう…。顔に痕でも残ったらどうするのですか」
沖田は真剣な表情で桜花を見る。
何故、赤の他人に対してそこまで必死になってくれるのか。ふとそんなことを思った。
「何故…、沖田先生は良くして下さるのですか」
「何故って…それは貴女が──」
それは貴女が女子だから。そう言いかけて、沖田は口をんだ。何故だか、それは言ってはいけない気がしたのである。
それ以上の理由があるのではないかと、心の奥底で声が
一介の下働きの頬が腫れているかなんて、余程注意深く見ていなければ気付けないことだ。それを目敏く発見するなんて、余程執着していないと出来ないだろう。
斎藤はその様に思っていた。
「…そんなの、有りませんよ。有る訳無いじゃないですか」
沖田は自分に言い聞かせるようにそう呟く。
だが、その言葉とは裏腹に。視界の端に映る桜花が松原の横から離れたのを見ると、身体は自然とそちらへ向かっていた。った。それを振り払うように首を横に振る。
沖田は桜花の目を見た。透き通っていて、何処かいじらしい…。好ましさを感じる反面、この目を見ていると、自分の汚さが見透かされそうで怖かった。
沖田は目を逸らすと、桜花へ背を向ける。胸に手を当てると、忙しなく鼓動が動いていた。
「……取り敢えず、それで冷やして下さい」
それだけ言い残すと、沖田はその場を去る。
八木邸の門を出て、右折した所でしゃがみ込んだ。
『何故、に鈴木の事を気に掛けるのだ。…特別な感情でもあるのか』
先程の斎藤の言葉が脳裏に響く。
「そんなこと…有る訳がない…」
そう呟くと同時にケホ、と軽い咳が出た。
最近空咳がたまに出る気がする。夏風邪か、と思いつつ沖田は前川邸へ戻って行った。翌日。新撰組では小さな騒動が起きていた。
先日の近藤を非難する建白書に連名した罪、局長非難をした罪で、葛山武八郎へ切腹が言い渡されたのである。
松平容保の仲裁で和解をしてからも、葛山は納得しておらず、周囲へ不満を漏らす様子があった。
それが土方の耳に入ったのである。
そもそも土方を通さずに建白書を会津へ提出したこと自体が、問題だった。
だが幹部が何人も関わっているとなると下手に処分を出せない。
筆頭となった永倉に対しては、江戸に行くまでの期間の謹慎と、次考えている隊内編成にて降格処分が決まっていた。
何のお咎めも無し、であれば平気で局長非難をする隊士が次々と出て来てしまいかねない。そこである種の
がそうであるように。
「二天一流兵法」の開祖である武蔵は、生涯、妻を娶らなかった。晩年は、霊巌洞というところにこもり、有名な「五輪書」を執筆して残している。
身近でも双子がそうだし、地中海脫髮成因 斎藤や沖田だって浮いた話がない。永倉は、伴侶であるさんを亡くしてからは、女性に興味がなさそうにみえる。
ふふん。もちろん、おれだってそうである。
「いいかげんにしやがれ。おまえは、に見向きもされねぇだけだろうが、ええっ?」
なっ・・・・・・。
副長にぴしゃりとダメだしをされてしまった。いや、ツッコまれたのか?
わかってますって。おれはどうせ、モテないって理由で孤独なんですよ。
「おうっ!はやかったな」
いつもの部屋にゆくと、永倉と島田がサシで呑んでいる。西郷は、ついさきほど寝所にひきとったという。
さぁは、夜更かしが苦手なんや」
半次郎ちゃんが苦笑とともに教えてくれた。
「ぽちが酒肴をもってきてくれる。呑むだろう?」
永倉がそう尋ねたのは、半次郎ちゃんにである。
「おっと、主計。無論、おまえもだ」
そしてやっと、おれという存在に気がついたらしい。
「ええ。オールはさすがに無理ですが、あともうすこしなら。あっ、オールというのは徹夜という意味です」
好奇心旺盛な永遠の少年島田に問われるまえに、解説しておく。
その島田から庭にを向けると、相棒はすでに丸くなって眠っている。
といっしょか諸用でないかぎり、夜更かしはせぬであろう?」
永倉は、だまっている副長にたずねてからガハハと笑う。
「そうだな。しかし、せっかくだ。今宵はども相手に夜更かしもよかろう」
さすがはイケメン。神対応である。
ばかりだがけっこう盛り上がった。
ああっ、くそっ!
パッと目覚めたら、すでに室内が明るくなっている。呑みながら落ちてしまったようなものである。つまり、またしても準備してくれている寝所ではなく、呑んでいる部屋で眠っていたのである。が、体の上に薄手の掛け布団がかけられていることに気がついた。それを腹のあたりまでずらしてみた。すると、ひんやりとした空気が肩と胸あたりにまとわりつく。
わお・・・・・・。
前日の朝とちがい、ずいぶんと涼しい朝である。この掛け布団がなかったら、風邪をひいたか腹をくだしたか、あるいは両方に襲われたかもしれない。
こんな気の利いたことをだれがしてくれたかは、かんがえるまでもないだろう。
周囲をみまわしてみると、その気のきく男と西郷以外が、鼾をかいて眠っている。
あ、訂正しておこう。イケメンはトイレにいかないのと同様、眠っていても鼾をかいたり寝言はいわないのである。
おれと同様、それぞれに掛け布団がかけられている。しかし、暑がりの永倉は、をはいでしまっている。
掛け直してやろうと上半身を起こすと、倦怠感に襲われた。
二日酔い?
たしかに、いつもよりかは呑んでしまった。もう二度と酒を酌み交わすことのないであろう半次郎ちゃんや別府と、剣術の話や馬鹿話で盛り上がってしまった。そういうわけで、ついつい調子にのって杯を重ねたのである。本場の芋焼酎が想像していたのより呑み口がよかったから、というのもある。
さらには、俊春が先夜の蕎麦粉の残りでつくったといって、蕎麦がきをだしてくれた。もちろん、ほかにも塩漬け豚肉を炙ったのとか、だし巻き玉子とかもつくってくれた。
あれだけカツ丼を喰ったというのに、しかも真夜中だというのに、がっつり喰ってしまったのである。
ってか、おれがこれだけ食に貪欲で、しかも我慢ができぬ根性なしだったとは……。
あらためて気がつかされた次第である。
おれでもこんなていたらくである。
永倉や島田、それに野村や別府に「自制心」、という概念があるわけもない。四人とも、ひかえめにいってもめっちゃ喰ってた。喰いまくってた。
副長と半次郎ちゃんにいたっては、かたやムダに恰好をつけまくり、かたやお上品に、それぞれ堪能していた。
「やったら、いっきでも嫁にもらうところじゃ」
半次郎ちゃんは、俊春のことをそう評価した。
つまりかれは、俊春をお料理上手認定したのである。
うん、半次郎ちゃん。それは、全員がそう思っています。
だれもが、心のなかでかれに同意してうなずいたはずである。
「ふふん。で、あろう?自慢の子だからな」
副長が、ドヤ顔でわが子自慢をはじめた。どうやら、俊春は副長の剣術の弟子から、才色兼備な子どもになったらしい。
「おいおい、土方さん。餓鬼自慢はいいが、それは笑えぬぞ。ぽちたまがあんたの隠し子だっつっても、納得してしまうかもしれぬ。ぽちは兎も角、たまはそっくりだからな。出会って最初のころはさほど感じなかったが、とくに軍服を着用するようになってからは、幾度たまを土方さんって呼びそうになったことか。まぁ、ぽちも雰囲気はあんたに似てはいるが……。きっとぽちは、母親似にちがいない。繰り返すが、たまはあんたに激似だ。
結局、それからたっぷり二時間は呑んだ。途中、野村と別府も乱入してきて、
「おおおおおっと、土方さん。あんたは、褥で
「